1. HOME
  2. COLUMN
  3. 建築家・青木淳の都営交通考察〜地下鉄駅の劇場性について 色とシークエンスについて 都営大江戸線「六本木」駅
連載 建築家・青木淳の都営交通考察〜地下鉄駅の劇場性について
写真: 第2回 色とシークエンスについて 都営大江戸線「六本木」駅

私たちが普段何気なく利用している「駅」。
建築家の視点で見ると、どのように見えるのでしょうか。
青木淳さんに考察していただきました。

第2回色とシークエンスについて 都営大江戸線「六本木」駅

  • 文・スケッチ/青木 淳

大江戸線「六本木」駅ホームでは、日本では珍しいことに、積極的に黒が使われている。太陽光の差し込まない地下は暗いので、黒という選択には勇気がいるはず。しかもここのホームは、地下深いことで有名な大江戸線のなかでも最も深く、日本全国最深地下鉄駅なのだそうだ。どんな設計の過程だったのだろう。「黒?ただでさえ、暗いところに入っていくのに、気分が暗くならない?」というような議論があったと思うのだけれどどうかわしたのだろう、などというのは余計な心配で、実際、「空間が暗い」と「色が黒い」は違うのである。

大江戸線「六本木」駅

「空間が暗い」というのは、光が少ないと感じること。白い部屋でも光がないと暗い。というより、光の少なさに敏感に気づくのは、むしろ白い部屋の方だ。部屋にいる人に同じくらいのわずかな光があたっている場合、白い部屋では人は暗がりのなかで沈んだままだが、黒い部屋ではスポットライトに照らされたように際立って見える。つまり、黒い部屋では、人は劇場の舞台に立っているようなもの。だから、黒が多用された大江戸線「六本木」駅ホームは、電車を待つ人を美しく、あるいはキリッと見せてくれる。駅という、知らぬ人同士がすれ違う舞台背景として、黒はなかなかいい選択だ。この駅は、艶ありの黒にゴールドの小波壁があしらわれていて、ちょっと豪華で、大人っぽくもある。

この駅のもうひとつのポイントは、延々と地下深くまで降りていく体験をどう演出するか、ということ。シークエンスのデザインと言ってもいい。一度、東京ミッドタウンの側(7番出入口)から、降りてみてほしい。個人差はあると思うけれど、ぼくはビルで言えばほぼ10階分に相当する42.3mを降りているほどには深さを感じないのだが、どうだろう。まず改札階まで降りる。改札の先を右に曲がって、もう一つ下の階に降りる。その先には幅約10mの大きな壁面がある。右に折り返して、またエスカレータに乗る。降りてすぐ右に折り返して、広い通路を進みながら7段の階段を降りて、その先をぐるっとまわって、最後のエスカレータに乗り、大門方面のホームに到着。折り返しごとに、息継ぎが入る。同じ折り返し方の反復だとつらいが、毎回違う折り返しの趣向がある。7段の階段付きの広場が挟まるというのも、なかなかしぶい技だ。それでも、乗り換えるエスカレータは4台だから、平均すれば1台で2.5階降りる計算。やっぱり長い。そこで、エスカレータ部の天井にふた山のカーブをつけて、途中に息継ぎを入れる。うまい。このシークエンスのデザインは、過不足なく、清潔だ。

大江戸線「六本木」駅

と感心しながらも、ぼくだったらどうするか、ついつい考える。降りる深さを「感じさせない」以上に、深さを「楽しませる」ことはできないか。なにせ、奥には素敵な舞台が待っている。そうそう、降りるときのことだけでなく、上るときのことも考えたい。降りるにつれてだんだん黒を強めていく。同様に、上るにつれてだんだん黒を強めていく。とするなら、途中のなかほどがもっとも白くなる。黒から白に、白から黒に。さすれば、降りるときも上るときも、舞台に出る高揚感が加えることができるかな、と。

  • 青木 淳(あおき じゅん)

    建築家。青木淳建築計画事務所を主宰。青森県立美術館などの公共建築、住宅、一連のルイ・ヴィトンの店舗などの商業施設など、作品は多岐に渡る。1999年日本建築学会賞、2004年度芸術選奨文部科学大臣新人賞などを受賞。主な著書は、『JUN AOKI COMPLETE WORKS Ⅰ :1991-2004』、『同第2巻:青森県立美術館』、『同第3巻:2005-2014』、『原っぱと遊園地』など。

ページの先頭へ